地方のスタートアップイベントに何度か参加したのでメモっとく


 
「地方でスタートアップが盛り上がる条件とは?」みたいなタイトルにしたかったけど、キャラじゃないのでやめました。
 
先日、鹿児島のピッチイベントにお呼ばれして行ってきました。去年12月に初鹿児島だったんですが、それから3ヶ月しか経ってないけど呼んでいただけてありがたい限り。直前でトラブルあって少しバタバタしたけど、総じて良いイベントだったような気がする。また、鹿児島の前後に福岡にも立ち寄り、現地のスタートアップ施設であるfgnで何人かの起業家等とお話できたので有意義だった。
 
今年に入って福岡2回、鹿児島1回、去年は福岡1回、鹿児島1回、浜松1回、一昨年は浜松1回、福岡1回、その前にも名古屋、福岡などスタートアップ関連イベントでお邪魔させていただいた。本当はもっと積極的に各地にでかけたいのだが、コロナの状況ではなかなか難しい。それでも何度か地方のイベントに参加する機会を得て、地方の可能性を感じたわけだが、ちょっと僕の地方スタートアップに対する考えを書いておこうかなと思った。
 
(文中に「地方」という単語を使っているが、本来は使いたくないなと思ってる。自分のいるところが「中央」でその他が「地方」なので。ただ便宜上「地方」という言葉を用いて書いているので、ご了承のほど)
 
 
 

「起業」という選択肢が加わればいい

ピッチイベントやStartup Weekend(SW)に参加しているからと言って、闇雲に「起業」をする人を増やしたいわけではない。これは東京だろうが地方だろうが関係なく、そう思っている。「起業はリスク」とはあまり考えてないが、人には向き不向きがある。また、やりたい事を実現する手段として「起業」が適していない場合もある(大きな会社の一員だからできることは多い)。とは言え、進路の選択肢の中に「起業」というものが入るのは素晴らしい事だなと思っている。
 
東京では木下さんの啓蒙活動などもあって「起業」という選択肢の認知は広がったのではないかと思うが、地方ではまだそこまで「起業」の認知は低い気がする。認知を広げて「(起業という)生き方もあるんだな」と、まずは興味を持ってもらえたらいい。それくらいに考えているし、別に起業しなくてもいい。
 
SWに何回か審査員、コーチをさせてもらってるが、そこの参加者から新卒で道元坂のベンチャーに入った人や地元の大手企業から東京のスタートアップに転職した人もいる。SWやピッチイベントなどを開催することによって、スタートアップの存在を知り、新卒で入ったり、転職したりする人が増えればまずはOKかなと思う。
 
 

「ムラ」だから良いことはある

「ムラ」と揶揄されることもある東京スタートアップシーンではあるが、僕は「ムラ」が悪いことだとは思っていない。その一番の理由は、密なネットワークにより、悪いことがしにくいという点だ。例えば、悪どい条件で出資したような投資家の情報はすぐに知れ渡る。そうなるとその投資家は「ムラ」の中では活動できなくなる。「ムラ」という小さな、濃密なコミュニティだからこその相互監視的なシステムが自然と出来上がってるのは、起業家にとっては良いことかなと思う。
 
投資家としてはなるべく良い条件で出資したいものではあるが、ただそこにはフェアバリューのようなものがある。起業家の戦いに長期に渡ってご一緒するには、短期的な損得ではダメで、フェアにいかないといけないと思う。「ムラ」が形成されていき、昔よりもだいぶフェアな舞台になってきたように思う。一方で地方には「スタートアップムラ」が無いので、アンフェアな取引が散見される。
 
SWでとある地方に行ったとき、地元で会社を経営しているおじさんが参加していた(ちなみに、SWは初めて会う参加者同士がチームを作り、サービスを考え、最終日に発表するというイベント)。そのおじさんはサービスの相談はそこそこに「エンジェル投資って儲かるんですか?やってみたいんですよ」と質問してきた。たぶんそういうおじさんが各地にいる。東京にもいると思うが、「ムラ」の中には侵入しにくい構造になってる。地方にいるそういうおじさん(おばさんもいるかもしれない)を僕は正していきたいという気持ちが強い。
 
 

東京と地方の「情報格差」とは何か?

「地方だから」「コミュニティ(ムラ)にいないから」情報が無いと言う人は多いが、はたしてそうなのだろうか?といつも疑問に思う。サービスの流行や海外事例などは検索すればすぐに出てくる。そこに東京も地方も格差はない。では、前述のような事を言う人の共通点は何かというと、自分で積極的に情報を取りにいってない点である。「ムラ」の真ん中にいても、何もしなければ情報は入ってこないし、地方にいても貪欲に情報を取りにいってる人は何事も詳しい。みんなもっと情報を取りにいく努力をした方がいい。
 
人的ネットワークにおいて入ってくる情報に関しても、これも実は東京、地方で差はそんなに無いのかもなと思う。ゼロとは言わないが、コロナの状況になって物理出社も減ったし、オフラインイベントも減った。有名な起業家やVCの人とのオフラインでの接触機会地方格差は小さくなったと言える。
 
また、地方でのオフラインイベントに登壇などするには時間とコストがかかる。しかし、ほとんどのイベントがオンライン化され、「オンラインならば登壇できます」という有識者もいると思うので、実はチャンスかもしれない。オフラインならば会えないような大物の話を聞く事ができるかもしれない。実際に「オンラインならば」と有名起業家のセッションがfgnで実現されたらしい。
 
オフラインのメリットは確かにある。しかし、名刺交換などしなくても、SNSで繋がることはできる(名刺交換してもほとんど忘れてしまうものだ)し、メッセージや資料などをそえると、単なる名刺交換よりも相手に覚えてもらえるかもしれない。
 
そういうわけで、情報格差ってのは能動的アクションと柔軟な発想である程度埋められるのかなと思う。やっぱり地方における一番の「情報格差」は前述のような「おじさん情報」が少ないようなことなのかなと思っている。甘い話を聞いてもいったん地元のVCや僕たちのような人に相談することをオススメする。
 
 

(先日福岡のfgnで開催されたイベントに登壇中のてるま氏
 

地方の可能性に目を向ける

事業によっては東京よりも地方の方がニーズがあるものも多い(山梨でやってる某氏に今月会いに行く予定だ)。また仮説検証のしやすさという点で地方が適している場合もある。昨年投資させてもらった某社は、仮説検証においては東京じゃない方が良いのでは?ということで浜松でまずはやってみることを決断し、現在も当地で強力なパートナー企業とともに仮説検証を回している。地元の強力な企業とワンチャン提携できちゃうのも地方の良いとこかもしれない。

東京に拠点を置く私たちは、良くも悪くも「都心の事情のインサイダー」です。そこに入りすぎないからこそ見える課題とその解決方法、プロダクトセンスというのを期待しています。
【TLM 木暮】共感やアテンションが重要になる2021年のコンシューマサービス(DIAMOND SIGNAL)

てるまがSIGNALで語ってたこの箇所。これは僕もまさにそう感じるところ。地方に行くと毎回新たな視点をもらえる。現地の起業家もそこにいるからこそ見える課題の解決に取り組んでいて、僕たちからすればとても新鮮だ。東京ではないから戦える事業、領域ってあると思うし、じゃあその傾向があるのかな?と先日調べた。


調べてみると、大学発ベンチャーが多い。てるまが言うように「C向け」の可能性も高いと思うが、現状はまだ少ない。
 
 

地方でスタートアップが盛り上がるには?

地方でスタートアップが盛り上がるには、いくつかの条件があるのではないかと思っている。現状考えてる条件は以下の4つ。この4つが全てそろっていると盛り上がる。

「行政のやる気」「都市の規模」「若者の数」「ロールモデル」
 
例えば福岡がその良い例だ。最近よく行く福岡にはfgnという施設がある。
 

 
ここは行政と地元の企業(福岡地所)、ベンチャー(GMOペパボ、さくらインターネット)が運営委員会として運営してる施設。運営委員会(事務局)の官民連携、地元企業とベンチャーの連携のバランスが良いなと思ってる。高島市長のやる気が市の職員にも伝わっているのがわかる。地方でスタートアップが盛り上がるには、行政の理解度と柔軟性、参加度が思っている以上に重要なのかもなと最近思うようになった。行政が民間に委託するだけという図式ではなかなかうまくいかなそうな感覚を持った。行政の大いなるミッション(と市長などの強力なリーダーシップ)の元に地元企業、ベンチャーなどが協力し合って運営がなされるのが一つの解答なのかな。
 
浜松市も二度ほどSWで訪れたが、二度とも鈴木市長が審査員として参加していた。「俺はスタートアップイベントだけは全て参加するようにしてる」と市長もおっしゃってたくらいやる気がある。ちなみに鈴木市長はかつて東京で広告代理店を起業して長きに渡って経営してたそうで、SW審査員としての質問も鋭いものだった。また電動キックボードのLUUPの実証実験なども浜松で行われたが、これは市長のスタートアップに対する理解度の高さを物語るエピソードと言える。

行政のやる気:福岡も浜松も市長がやる気
都市の規模:福岡市は約154万人、浜松市も約80万人の人口を抱える
若者の数:福岡市は九州大学、浜松市は静岡大学などともに複数の大学が存在する

「ロールモデル」に関しては福岡ではペパボ創業者で現在はCAMPFIRE代表をつめる家入さんが挙げられる。ペパボの支社も福岡にあり、ペパボ中心に盛り上がったような印象はある。最近ではnulabの存在が大きい。浜松はYAMAHA、SUZUKIなどの大企業を生み出した街であり、元来起業家文化が存在する。浜松発のスタートアップ的ロールモデルはいないが、浜松出身の起業家は多い。彼らが今後浜松のスタートアップシーンを盛り上げていく可能性はある。
 
最後に鹿児島。トップの画像は甲突川から桜島をのぞむ風景。市電が走り、独特の雰囲気を持つ街。老舗デパート山形屋の建物はほんとすごくて圧倒される。そんな鹿児島にはmark MEIZANというスタートアップ施設がある。ここも福岡fgnと同じように官民が連携して運営している。SIGNALでも先日記事が上がっていた。

DIAMOND SIGNAL
高校生エンジニア起業家も誕生──鹿児島が「スタートアップの街」に変化し始めてい...
https://signal.diamond.jp/articles/-/647
鹿児島がいま、面白い動きを見せている。2019年2月に立ち上がった、鹿児島市のクリエイティブ産業創出拠点施設「mark MEIZAN(マークメイザン)」が中心的な役割を担い、地域資源を使ったクリエイティブ産業の創出やスタートアップ支援、そして起業したい人の育成・...

コロナ禍においてオンラインへの移行が加速した社会ではあるが、やはりこういった拠点は大事だ。鹿児島もポテンシャルはあると思う。なんといっても維新を成し遂げた街なんだから。
 
「行政のやる気」「都市の規模」「若者の数」「ロールモデル」。この4項目がそろえば、街全体として盛り上がっていくだろうし、その上で僕らも何らかの刺激を与えることができたらいいなと思う。要は「また呼んで欲しい」ということです。(完)
 
 

2021/04/07 

地方のスタートアップイベントに何度か参加したのでメモっとく